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クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ展、水戸芸術館現代美術ギャラリーで開幕!

Category: 展覧会


展示風景

水戸芸術館現代美術ギャラリーにて、10月1日より「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1884-91」展が始まりました。開幕に先立ち、9月30日にクリスト本人による展示解説を含む内見会が行われました。

同展は、景観を変貌させる大規模なプロジェクトで世界的に有名なニューヨーク在住のアーティスト、クリストとジャンヌ=クロードが、1991年秋にアメリカのカリフォルニア州南部と日本の茨城県北部で実施した「アンブレラ」のドキュメンテーション展です。

クリスト(1935年ブルガリア生まれ)と妻・ジャンヌ=クロード(1935年モロッコ・カサブランカ生まれ、両親はフランス人)は、1960年代初頭から「クリストとジャンヌ=クロード」という名で芸術活動を始めました。1964年にアメリカに移住後はニューヨークを拠点として、屋外空間での“一時的なアート作品”の創作を続けています。2009年にジャンヌ=クロードが亡くなってからも、クリストは「オーバー・ザ・リバー、コロラド州アーカンサス川のプロジェクト」、「ザ・マスタバ、アラブ首長国連邦のプロジェクト」の実現に向けて活動し続けており、今年は「ザ・フローティング・ピアーズ、イタリア、イセオ湖、2014-2016」を北イタリアで実現しました。

「アンブレラ」は1991年に実施され、カリフォルニアの丘陵地帯に1760本の黄色の傘を、茨城県の常陸太田市・日立市・旧里美村の水田地帯に1340本の青色の傘を同時に配置しました。使用されたのは、高さ6m、直径8.7mという巨大な傘。会期中に日本で50万人、アメリカで200万人が鑑賞し、今も当時を知る人々……特に開催地となった茨城県北部の人々には、鮮烈な記憶を残しています。展示が行われたのはわずか18日間でしたが、構想が始まった1984年から1991年までの全ての歩みが「アンブレラ」であり、カリフォルニアと茨城の地元の人々との密接な関わり、協力があってこそ実現することができた大プロジェクトでした。同展では、クリストによるドローイングやコラージュ作品、写真、傘本体のほか、実際に使用された資材、スケールモデルなどを展示し、「アンブレラ」プロジェクトの全貌を振り返ります。

※旧里美村…2004年に水府町、金砂郷町とともに常陸太田市に編入。

 

展示室で解説するクリスト氏

展示風景。イメージを探るドローイングにはさまざまな画材のほか、布なども使用されている。

展示室で解説するクリスト氏。右は通訳を務めた柳正彦氏。

内見会では、クリスト本人が全ての展示室を詳しく解説しました。通訳を務めたのは、1980年代中ごろから、クリストとジャンヌ=クロードのスタッフとして「アンブレラ」、「包まれたライヒスターク」、「ゲート」、「オーバー・ザ・リバー」、「マスタバ」の準備、実現に深く関わってきた柳正彦氏です。

解説の冒頭でクリストは、展覧会の開催について、次のように語りました。

「実際の作品展示期間は2週間でしたが、そこに至るまでの全ての期間がプロジェクトです。6年間に及んだプロジェクトの全容を知ってもらうために、今回の展覧会を開きます。ドローイングなどは複製でなく本物です。本物を見ていただくことが大事だと思っています。」

また、自身の“プロジェクト”の始まりについては、

「プロジェクトの最初の期間は、作品が物理的に存在しない期間です。物理的に存在しないというのは、作品がドローイング上だけにある状態です。私が作品のドローイングを描くのは最初だけで、アシスタントは使わず、全て自分で描きます。私たちのプロジェクトは普通の彫刻作品とは違い、ものすごく大きなものなので、ドローイングの際も実際に現地に行き、実寸大のプロトタイプを製作します。どういう光が当たるか、雨の日にはどう見えるかなど、いろいろな意味での美的決定は、現地でしか決められません。ですから、テストは必要です。でも、人には見られたくないので、アンブレラの青い傘のテストは、人里離れた里美村でひっそりやりました。」

と語っていました。展示会場には、第一室から膨大なドローイングが並びます。それらは単なるイメージではなく、地理的な計算や現地での取材に基づいた綿密な計画書であり、鑑賞者はクリストがまだ存在しない風景を徹底的に追究した軌跡を辿ることができます。

展示風景。実際に使用された資材も展示される。

展示室で解説するクリスト氏

展示室で解説するクリスト氏

クリストは、『アンブレラ』の展示を2つの場所でやるという構想を、まだ日本に来る前のオーストラリアで考えていたと言います。来日後に、日本の風土や文化を知り、人々と関わるうちに、日本でやることを決めたものの、日本のみでの展示とは考えていなかったそうです。

「2つの場所での展示は、2枚1組の絵画のように考えていただければと思います。『アンブレラ』は、当時の世界で1、2位の経済大国を結ぶプロジェクトという大きな意味もありました。『アンブレラ』は三次元の芸術作品であって、空間はとても大事です。2つの国がどういう空間の使い方をするか、ということをより顕著に表現したいと思いました。日本は国土の10%未満に人が住んでおり、アメリカの10%くらいの土地に3〜4倍の人が密集して住んでいます。広い土地に人がまばらに住むアメリカと、狭いところに集中して住む日本の様子を表すことを考えました。アメリカは東海岸と西海岸で風景が全く異なります。特に南カリフォルニアは日本と景観が大きく異なるのが面白いと思い、選びました。」

そして、クリストが日本のイメージから“傘”というアイテムを選んだと言われていることについては、

「傘は日本や中国で発明されたものではなく、元々は紀元前のメソポタミア文明で日よけとして発明されたもの。最初は2階建ての家を考えたのですが、“壁のない家”のイメージで大きな傘に変わっていきました。傘を設置することで、空間の使われ方の違いが表現できると思いました」

と真意ではないことが説明されました。

展示風景。当時を記録する写真の数々から、「アンブレラ」がクリスト&ジャンヌ=クロードと現地の人々が一丸となって成しえた大プロジェクトであったことが伝わってくる。

実際に使用された傘を使って解説するクリスト氏

現在茨城県北地域では「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」が開催されていますが、その公式ガイドブックを弊社で発行し、筆者も制作に携わりました。現地の人に取材をしている最中、まず現代アートの祭典だと説明すると出てくるのが「アンブレラ」というキーワード。実際見に行ったときの様子を語って下さる方もいれば、当時学生でスタッフとして参加したという思い出を持つ方もいらっしゃいました。水戸芸術館のミュージアムショップのスタッフの方によると、県北からいらっしゃったお客さまが今回の展覧会のポスターを見つけて、お買い物の帰りに「アンブレラ」の思い出話を聞かせてくださることもあるそうです。今回の展示でも、地元の住民たちとの深い交流を物語る貴重な写真や資料の数々が展示されています。

当時の住民とのやりとりについてクリストは、

「実施場所に選んだカリフォルニアの29km範囲には、25人の地権者がいました。一方、日本の実施場所に選んだ19kmの範囲には450人近くの地権者がいました。これだけでも対照的ですが、日本の地権者はプロジェクトにすごく簡単に賛同してくれたのに対し、行政を説得するのは大変でした。カリフォルニアは逆で、行政を納得させるのは簡単でしたが、わずか25人の地権者を説得するのが大変でした」

展示風景

展示風景

茨城県北の地で約19kmに渡って展示されたプロジェクトの様子を1000分の1スケールで再現。別室ではカリフォルニアの約29kmに渡る展示風景も1000分の1スケールで再現されていた。

実はこの内見会の2日前に、当時の傘の設置場所を訪れたというクリスト。風景はあまり変わっていなかったといい、「アンブレラ」の開催と同じ時期に再訪できたことを喜んでいました。一番のお気に入りスポットは、傘が一番密集して設置された里美村の陣場(じんば)だそうです。

最後の展示室では、会期中の様子の写真が展示されており、来場者がとても良い表情で写っています。その光景を振り返る中でクリストは、

「展示が始まってみて、傘は壁のない家というコンセプトではあったが、私たち欧米人が傘の下で腰掛けるところ、日本人が靴を脱いで上がっていた(正座していた)のを見たときは驚いた」

というエピソードも明かしていました。

会場では、1995年に公開された映画「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ」が1日5回上映されています。時間は10時、11時半、13時、14時半、16時。現在DVDの入手はできないそうなので、ぜひ会場でご覧下さい。

茨城水戸芸術館ミュージアムショップでは、同展図録のほか、同じ茨城県北の地で開催中の「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」の公式ガイドブックも取扱中!

先ほども書きましたが、同展開催と同時期の今、「アンブレラ」の日本側舞台となった常陸太田市、日立市、旧里美村を含む茨城県北6市町で、「KENOPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」が開催されています(11月20日まで)。茨城県初の国際芸術祭として注目を集めており、国内外の優れたアーティストが、県北地域の歴史や文化、食、伝統工芸といった創造的な地域資源と出会うことによって生み出された、約100の作品やプロジェクトを展開しています。

「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91」展とは相互割引を実施していますので、セットで訪れてみてはいかがでしょうか?水戸芸術館のミュージアムショップでは、同展図録と合わせ、芸術祭のガイドブックも販売中です。この秋の観光は新旧茨城県北現代アートめぐりを楽しみましょう!

クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91

会期:2016年10月1日(土)~12月4日(日)
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー
住所:水戸市五軒町1-6-8
料金:一般800円(600円) 、中学生以下・65歳以上・障害者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名 無料  ※( )内は20名以上の団体 ※KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭との相互割引有。作品鑑賞パスポート(前売引換券含む)および個別鑑賞券半券の提示で、団体料金適用。
主催:公益財団法人水戸市芸術振興財団、読売新聞社
問い合わせ先:水戸芸術館 029-227-8111(代表)

『KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭 公式ガイドブック』の詳細はこちらをご覧下さい。

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